医療・健康コラム
Vol.10(2020/6/25)世界の状況/入国緩和による感染リスク/中国からの報告:抗体の量が低下する/ほか
世界的には、新型コロナウイルス感染症の拡大は、今なお続いています。
日本国内では社会・経済が動き始めていますが、その結果、海外からの流入などによって、再度、新型コロナウイルス感染症が流行するリスクを秘めています。
まだ安心できる状況にはありません。
日本は、世界的に見れば、新型コロナウイルスに対する安全度の高い、とするレポートもありますが、それも現状を断片的に示したものに過ぎません。
日本における新型コロナウイルス感染症の全体像は今なお不透明なところがあり、この感染症に対して何が有効なのか、専門家の間でも様々な議論があります。
こうした現状を克服するためのひとつの試みとして、現在、大規模な抗体検査のプロジェクトが計画されています。
今まで分からなかった事実が明らかとなり、いつ来るか分からない「第二波」への備えに繋がる。そういう成果を大いに期待したいものです。
今回は、この抗体検査に関して、中国、欧州、日本の先行事例を取り上げて、どのような仮説が取りざたされているのか、ご紹介してまいります。
[1] 世界では新型コロナウイルス感染症はまだまだ増えています
世界では、発症者数が毎日増加しています(毎日15万人以上増加)。現在の感染拡大の中心は、中南米に移ってきています。
(図1)世界の発症者数の推移(2020/6/23時点)
出所:Johns Hopkins大学「CORONAVIRUS RESOURCE CENTER」
https://coronavirus.jhu.edu/map.html
世界の死亡者数も中南米が増えてきています。
今までの総数は発病者が900万人に近づき、死者も46万人です。
(図2)世界の死亡者数の推移(2020/6/23時点)
(図3)発症者数と死亡者数の世界分布(2020/6/25時点)
出所:FINANCIAL TIMES「Coronavirus tracked: the latest figures as countries start to reopen」
https://www.ft.com/content/a26fbf7e-48f8-11ea-aeb3-955839e06441
[2] 西浦教授の特別講義「入国制限緩和のリスク、シミュレーション」
数理モデルを用いて新型コロナウイルス感染症の分析を進められた、北海道大学大学院医学研究院社会医学分野衛生学教授の西浦進先生が、緊急事態宣言解除後の日本における感染リスクとして、国際移動リスクを指摘されています。
感染率の高い国から日本への入国者数がどれくらいの人数になったら、大規模流行を引き起こす可能性がどれくらい高くなるのか。
数理モデルが示すのは、あくまでも1つの仮説に過ぎません。緊急事態宣言が解除になったとしても、まだリスクが潜んでいることを理解して、新しい日常を考えていきたいものです。
「分岐過程モデル」で一人の感染者がどこかに新しく侵入した際に、感染がなくなる確率を計算することができます。ここでは、COVID-19のR(実効再生産数)は「1.6」という、現実的な値を使います。これらは日本でいろいろな対策を実施し、人々が行動変容している時の数値としましょう。
バラつきを表すパラメータを「0.1」とします。これは「10人の感染者の中で、約1人が2次感染を起こす」ことに相当します。これまで日本では、観察された疫学データから「5人に1人が2次感染を起こす」と言われていますが、ロンドン大学熱帯医学衛生学大学院のチームなどが統計学的に推定した結果では 「おおよそ10人に1人」という数値が出ています。
それら「1.6」と「0.1」を基に計算すると、COVID-19に感染した人が1人入国し、その人の接触が仮に追跡されずに自由にふるまった場合、流行を起こさずに自然消滅するのはq=0.9226(つまり92.3%)と計算できます。これが「絶滅確率」です。その1人の侵入だと流行は7.7%くらいの確率でしか起こりません。設定:外務省「感染症危険情報」で「レベル3」に相当、つまり入国禁止対象になるくらいの「感染率0.1%」(Alternativeは1%と0.0005%)の国や地域から入国したとき、国内に大規模流行を引き起こす確率を計算します。感染率を3段階で計算したのは、相手国を想定しながらのことです。「0.0005%」は韓国や中国などが該当し、流行がほぼ制御できた状態。「0.1%」は、最近で言えばロシアやブラジルなど。「1%」は、感染リスクが極めて高い状態でチャーター便で日本人が救出された状態(中国・武漢の際には約2%)などです。
入国者数は1000人/日の場合(Alternativeは2000人/日、4000人/日、8000人/日)で、どれくらいの確率になるかで計算します。特にアメリカや中国などから、複数便が到着すれば、すぐに1日2000~3000人が入国する状況は起こり得ます。
- ■流行確率の計算結果
- (表1)西浦教授のシミュレーション結果
90日間の入国者数が、9万人、18万人、36万人、72万人は、1日の入国者数で言うと、1000人、2000人、4000人、8000人に対応しています。
例えば、乗客が「0.1%」の確率で感染していた場合、検疫しないままに全員を入国させると、ほぼ100%の確率で大規模流行が起きます。停留をすると、それが少しだけ下がり、「停留+PCR検査」とするとさらに低下します。それでも、やはり入国者数が多いと、大規模流行を防ぎ得ません。
もっと感染率が高く「1.0%」だと、停留やPCR検査を実施しても、ほぼ100%の確率で大規模流行につながります。「何をしても厳しい状態」であり、こうした国との移動を再開すると、国内で相当の対策をしなければ絶対に流行が起こってしまう。そのような入国は国内でのパンデミックの拡大時、例えば、3月上旬から中旬頃にも起きていた可能性があります。 たくさんの入国者がいれば、流行が起きます。
一方で、今の中国や韓国など、感染率が「0.0005%」と低い国との移動を再開した場合、入国者が多すぎない限りはいいのですが、入国者が多すぎると検疫なしでは流行リスクが25%を超えます。停留あるいは「停留+PCR」を実施すると防ぎ得る状態になることが分かります。国境をまたいで移動する方々がいわれのない差別を受けることや、外国籍の方々が不当な扱いを受けないようにしていただけますようお願いをします。パンデミックとは世界の皆で乗り越えていく障壁であって、一つ一つの領域で不利益を被りすぎる方が出ないように政治には努力をしてもらいつつ、皆で賢くなっていきたいと思います。
出所:m3.com「パンデミック中の国際移動について皆で考えよう◆Vol.1 2020年6月2日」
https://www.m3.com/open/iryoIshin/article/780507/
[3]Forbes誌によるとAI判定の結果、日本は安全な国の第5位でした
新型コロナウイルス感染症の対策の取り方は、国ごとに大きく異なっていますが、各国の取組状況を11,400以上のデータを用いて定量・定性の両面から網羅的に分析し、国ごとの安全度を可視化した取り組みがあります。
日本は、安全な国の第5位(2020年6月現在)でした。
この指標も、世の中に数多あるものの1つに過ぎませんが、世界的に見て、日本は、新型コロナウイルス感染症を(結果として)コントロールできている、といえるかもしれません。
(図4)新型コロナウイルス感染症で安全な国(上位20か国)
出所:Forbes「The 100 Safest Countries In The World For COVID-19」2020/6/13
https://www.forbes.com/sites/johnkoetsier/2020/06/05/the-100-safest-countries-in-the-world-for-covid-19/#53a7f14468c5
1.Switzerland、2.Germany、3.Israel、4.Singapore、5.Japan
6.Austria、7.China、8.Australia、9.New Zealand、10.South Korea
11. United Arab Emirates、12.Canada、13.Hong Kong、14.Norway、15.Denmark
16.Taiwan、17.Saudi Arabia、18.Hungary、19.Netherlands、20.Vietnam
[4]新型コロナ、罹患後数ヶ月で抗体が陰性になる、という中国からの報告をどう解釈すべきか
以前から、新型コロナウイルス感染症に関して、免疫はできるのか、あるいは何度も罹患してしまう病気なのか、といった点に関心が寄せられていました。
この点に関して、感染症専門医の忽那賢志 先生が最新の論文を基に、記事を発表されています。
中国から急性期(呼吸器検体からウイルスが検出される時期)と回復期(退院から8週後)の抗体に関する報告がnature medicine誌に報告されました。
抗体とは、生体の免疫反応によって体内で作られるものであり、微生物などの異物に攻撃する武器の一つです。
抗体の量が高ければ高い方がその病原体に対する抵抗力があることになるため、免疫の一つの指標になります。
今回報告された研究は無症候性感染者37名と有症状者37名の急性期・回復期それぞれの抗体価(抗体の量)を比較したものです。
これによると、無症候性感染者も有症状者も新型コロナ患者では回復期にはすでに抗体が低下し始めているとのことです。(図5)新型コロナ患者の急性期と回復期の抗体価と中和率の推移
出所:https://doi.org/10.1038/s41591-020-0965-6
新型コロナでは回復期(退院から8週後)には無症候性感染者の40%、有症状者の12.9%でIgG抗体が陰性になるようです。
(図6)新型コロナ患者で回復期に抗体が陰性化する割合
出所:https://doi.org/10.1038/s41591-020-0965-6
新型コロナから感染して回復した人がどれくらいいるのか、これまでは抗体測定によって評価できると考えられていましたが、抗体が早期に低下する人が一定の割合でいるとなると、どうやって既感染者を評価すればよいのか難しくなります。よく報道であるような「東京で0.1%が抗体陽性」というような評価方法は、一度抗体が陽性になった人は長期間陽性が続くことを前提としていましたが、実は「現時点で抗体がある人」だけを拾っているだけで感染後時間経過とともに抗体が低下した人は拾えなくなる可能性があります。
(図7)既往抗体反応(anamnestic immune response)忽那先生作成
- ■新型コロナに何度も感染するかはまだ分からない
これらの抗体が陰性になった症例は再び新型コロナに感染するということでしょう。これに関してはまだ何とも言えません。
抗体というのはヒトの免疫のうち「液性免疫」という免疫を見るための指標になりますが、ヒトの免疫には「液性免疫」だけでなく「細胞性免疫」というものもあり、液性免疫の指標である抗体は免疫の一部分を見ているに過ぎません。
また、一度感染すると次にウイルスに暴露した際にメモリー細胞から急速かつ大量の抗体が産生されることで発症を防ぐ既往抗体反応(anamnestic immune response)が起こることもアカゲザルの実験で確認されています。
新型コロナにおいても一定の期間内の再感染であれば、抗体が陰性になっていたとしてもこの既往抗体反応が働き発症を防ぐことができるかもしれません。ヒトコロナウイルスは、一度感染しても再感染することが知られており、これは抗体が早期に減少するためと考えられています。しかし再感染時にはウイルス排出期間が短くなったり、症状が軽減されるようです。ヒトが何度も新型コロナウイルスに感染するということになれば、感染するたびに徐々に病原性は軽減され、将来的には風邪の病原体の一つとしてヒトや動物の間を循環するようになるのかもしれません。
今の「コロナと共存する生活」が私たちにとって暫定的なものなのか、恒常的なものとして受け入れなければいけないのかは今後の情報を待つ必要がありますが、いずれにしても今の段階で私たちにできることは変わりません。三密を避ける、こまめに手洗いをするなど個人個人にできる感染対策を地道に続けていきましょう。
出所:Yahooニュース:感染症専門医・忽那賢志 先生の記事より
https://news.yahoo.co.jp/byline/kutsunasatoshi/20200621-00184351/
原著:Clinical and immunological assessment of asymptomatic SARS-CoV-2 infections
Nature Medicine (2020) Letter Published: 18 June 2020
https://www.nature.com/articles/s41591-020-0965-6
[5]ヨーロッパ、特にベルギーの一般人抗体保有率、医療機関での保有率
【BMJのNEWSから抜粋】
ヨーロッパの中で感染率の高さが指摘されるベルギーでは、基幹病院で働く医療スタッフの抗体保有率の調査が行われ、先ごろ論文として発表されました。
(図8)ヨーロッパ11か国でのCovid-19感染率
出所:Wise J. Covid-19: Risk of second wave is very real, say researchers. BMJ.
2020;369:m2294. Published 2020 Jun 9. doi:10.1136/bmj.m2294
https://www.bmj.com/content/369/bmj.m2294
- ■ベルギーのある医療機関の職員3,056名の新型コロナ抗体陽性率は6.4%
ベルギーは死亡者が多いが、ある基幹病院のスタッフの感染率(抗体陽性率)は6.4%でした。
図8 のように、ベルギーでの感染率(抗体保有率)は、8%ですから、医療者だから、特に率が高いことはなかったものの、家庭に感染者がいると抗体保有率は3倍増という結果が出ました。また、抗体陽性でも6人に1人は症状がなく、コロナ患者を直接ケアする業務の有無による差はありませんでした。
感染予防の基本を守ることが重要であることを改めて示唆する論文です。尚、この論文の中では、自覚症状と陽性率の関係を示したデータが提示されていて、嗅覚障害のある方の抗体陽性率の高さが目を引きます。
(図9)
出所:Hospital-Wide SARS-CoV-2 Antibody Screening in 3056 Staff in a Tertiary Center in Belgium [published online ahead of print, 2020 Jun 15]. JAMA.
2020;10.1001/jama.2020.11160. doi:10.1001/jama.2020.11160
https://jamanetwork.com/journals/jama/fullarticle/2767382
[6]東京での500件の抗体検査からの仮説:東京都の感染者数は…
中国、ベルギーに続いて、日本・東京での抗体検査の先行的な事例について紹介します。
忽那先生の記事のように、新型コロナウイルス感染症の感染者でも回復期には抗体が減少している可能性があることから、東京都の感染者数は、この後の記事に紹介されている規模(8万名)よりも多い可能性は否定できません。
- ■東京の抗体検査、陽性率は0.6%
東京大学先端科学技術研究センターの児玉龍彦名誉教授(がん・代謝プロジェクトリーダー)らのチームが5月1、2の両日、都内の一般医療機関で無作為に新型コロナウイルスの抗体検査を実施した結果、10~90代の500検体のうち3例が陽性(0.6%)でした。
行った抗体検査は再現性も安定性も高く、鼻風邪コロナ4種には反応しないそうです。
加藤勝信厚生労働相も、4月に都内と東北6県で採血された献血の中から無作為に抽出した各500検体のうち東京で3件(0.6%)、東北で2件(0.4%)の陽性反応が出たと発表したばかりです。
政府は6月をメドに1万件規模で抗体検査を実施する計画です。これまで国内で最も感染者が多い東京都で感染がどれぐらい広がっているのかはっきりしませんでした。
東京都の人口1398万人の0.6%に相当する約8万人が感染しているということが一つの目安になるとの見方を児玉氏は示しました。東京都の感染者は5070人なので約16倍です。
- ■抗体の出方が違う
B型肝炎を例に挙げると抗体のうち、まずIgM(病原体に感染したとき最初につくられる抗体、ピンク色の点線)型が出てきて次にIgG(IgMがつくられた後に本格的につくられる。ピンク色の実線)型が出て回復に向かう」「その後、中和抗体(紺色の実線)が出てくると二度とかからないという免疫ができる」
(図10)児玉先生のスライドより
「新型コロナウイルスについて精密に計測すると、IgM(ピンク色の点線)の反応が遅くて弱いという日本人における傾向が出てきた。「実際に新型コロナウイルスに対する反応を見ますと、IgGが先に反応が起きてIgMの反応が弱いということが分かってきた」 「臨床機関で検討され、これから発表される結果を見てみると、重症例でIgM(赤い点線)の立ち上がりが早い。細い線で書かれている軽症例やその他の例ではIgMの反応が遅い。重症化している例ではIgMの反応が普通に起こる」
(図11)児玉先生のスライドより
(図12)児玉先生のスライドより
- ■SARS-X流行の仮説
「軽くて済んでいるという人は、すでにさまざまなコロナウイルスの亜型にかかっている。そういう方が東アジアに多いのではないか。特に沿海側に流行っている可能性があるのではないか」
「そういう人たちの場合、IgMの反応がなくて、IgGの反応が出てくる。新型コロナウイルスも配列がどんどん進化している。2002~03年のSARS(重症急性呼吸器症候群)の抗体が新型コロナウイルスにも反応することが知られている」
「SARSの流行以来、実際にはさまざまなコロナウイルス(SARS-X)が東アジアに流行していた可能性があるのではないか」
「その結果として、欧米に比べて東アジアの感染が最初にIgGが出てくるような免疫を持っていた可能性があるのではないかということも考えられる」
「ただこれは学問的な仮説なので今後、新型コロナウイルスの反応を見ながら学問的な研究が進められる」今後、抗体の大量測定によって診断と重症度判定、さらにSARS-Xの静かなる流行で日本人は新型コロナウイルスに対する免疫を前もって身につけていたかどうか研究が進められる予定です。
出所:Yahooニュース「東京の感染者は8万人」抗体検査から推計 日本をコロナから守ったのはSARS-X?
https://news.yahoo.co.jp/byline/kimuramasato/20200520-00179344/
- ■世界の論文では、IgM抗体が先に出てきています。(日本と異なります!)
新型コロナウイルス感染後、1週間ほどでIgM抗体が作られ、約2週間後にはウイルスと親和性の高いIgG抗体が出現し、ウイルスの消失する感染者が増加するとされます。
(図13)
出所:Nature「A pneumonia outbreak associated with a new coronavirus of probable bat origin」
Nature 579, 270-273(2020)
https://www.nature.com/articles/s41586-020-2012-7
https://www.ric.u-tokyo.ac.jp/topics/2020/ig.html(上記図13)
[7]症状の出ていない人から他者へ感染する可能性は「極めてまれ」
大規模な抗体検査が行われると、症状の出ていない感染者(不顕性感染者)の方が、ある程度のボリュームで明らかになることが想定されます。ただ、WHOによると、不顕性感染者から他者へ感染する可能性は低いことが分かっていますから、抗体検査そのものを不安に思う必要は無さそうです。
世界保健機関(WHO)は6月9日(スイス時間)に行った新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に関する記者会見で、不顕性感染者から他者にウイルスが感染伝播する可能性について、「現時点でわれわれが入手しているデータから判断して、依然として極めてまれ」との見解を示した(その理由について、「感染経路を細かく調査した報告を各国から数多く受けており、その中には不顕性感染者も含まれているが、不顕性感染者による二次伝播は確認されていない」と説明し、「こうした報告についてはほとんど論文化されていない」と補足した。その上で、「われわれは引き続きこうしたデータを注視しながら、さらに多くの報告を基により確実な解答を導き出したい」との考えを示した。
出所:メディカルトリビューン「新型コロナ、不顕性者からは「極めてまれ」WHOが会見 2020年06月09日」
https://medical-tribune.co.jp/news/2020/0609530570/?_login=1#_login
https://twitter.com/WHO/status/1270013794366812160
[8]新型コロナウイルスの大規模な抗体検査のプロジェクトが、始まっています
改めて、新型コロナウイルス感染症の(不顕性を含めた)感染者がどれくらい存在する(存在した)のか。
これを調査するための、ひとつの取組として、大規模な抗体検査の計画が進んでいます。
- ■新型コロナウイルス抗体検査機利用者協議会幹事会(略称:協議会幹事会)
協議会幹事会は、SARS-CoV2への抗体を、定量的に、全自動で、安全に、多数行うことを目指す機器を導入し、または導入を検討している機関で、実務を担う担当者が、診断、治療、疫学、基礎科学的な情報を共有するための次の学術的作業を行う。
本プロジェクトは、3大学病院(東大病院、慶應大学病院、阪大病院)および3研究所(東大先端研、東大アイソトープセンター、東京都総合医学研究所)の研究者が共同して、SARS-CoV2に対する2種類の抗体(IgMとIgG)を測定し、診断と経過および重症度判定における意義を明らかにすることを目的として発足した(各施設の倫理委員会承認済)。国内の疫学調査と臨床調査からなり、全国ネットで多数の症例のIgGおよびIgMを定量的に測定する。
これまでの予備検討では、我が国の新型コロナウイルスの感染者では、早期のIgMの上昇が見られない患者が多く、一方IgGは、感染2週目にはほぼ全員が上昇を示していた。この結果をもとに、できるだけ早期に多数の検体で測定し、本抗体検査の意義を明らかにすることが望まれる。
- ■我が国でのIgG、IgM抗体の予備的な測定結果
予備調査では、発症推定後、9日目から9割以上のIgG陽性が観察された。しかし測定日がこれ以前であるとIgGが陰性となる可能性がある。一方、PCR陽性者であっても、IgMは、感染後早期では高値にならない例が多い(4−5割)ことが明らかになりつつある。IgMが上昇しにくい患者において、免疫が上手く成立しているか検討が必要である。
今回測定する抗体の中和活性については不明である。したがって、メディアで報道されているように抗体陽性者が「免疫パスポート」を獲得するかは、これからの研究に待たなければならない。とくに新型コロナウイルス感染では、IgMの反応が弱い人が多いことがわかっており、免疫がうまく機能しないための再感染が懸念される。なおIgGが増加しても好中球/リンパ球比が高いと悪化することや、一度ウイルスが消えても再感染することが知られている。
出所:東京大学アイソトープ総合センターホームページより
https://www.ric.u-tokyo.ac.jp/topics/2020/ig.html
第二波に備えて、これらの調査結果や各種研究の成果が一日も早く待たれるところです。
※当ページの内容は「2020年6月25日」時点の情報です。