医療・健康コラム

Vol.20(2021/04/22)当クリニックの抗体陽性者/変異ウイルス/日本と世界の最新動向/ワクチンの変異ウイルスへの対応度合い/台湾の封じ込め政策ほか

連日の報道でご承知の通り第4波が押し寄せています。
大阪府や兵庫県などの新規感染者数は、緊急事態宣言発令下にあった第3波を超えており、東京都など首都圏でも油断を許す状況にありません。
この背景には変異ウイルスの影響があると考えられていますが、ワクチンの接種が変異株に対して効果があるのかどうか、今回詳しく見ていきます。
国民全員にワクチンが行き渡るまでには、まだしばらく時間が掛かる見込みです。
先行する海外事例やその知見を活かしながら、感染予防に努めたいところです。

今回のトピックス

1. 当クリニックでの抗体陽性率は急上昇しています。

2. 変異ウイルス情報について

3. 日本の最新状況

4. 世界の最新状況

5. 世界のワクチン状況

6. ワクチンの変異ウイルスへの対応力(モデルナ)

7. ワクチンの変異ウイルスへの対応力(ファイザー)

8. 日本人でのワクチン接種後のアナフィラキシー頻度に関して

9. コロナワクチン後の血栓症

10. 少量アスピリン療法は有効の可能性あり

11. 台湾の政策に関して

[1]当クリニックでの抗体陽性率は急上昇しています。

当クリニックでは発熱や咳などの症状がない(過去2週間以内にもなかった)方を対象に実施しておりますが、2021年2月15日から2021年3月14日までのコロナ抗体陽性率は8.8%(19/216)でした。
そして2021年3月15日から2021年4月14日までのコロナ抗体陽性率は11.3%(23/203)と、とうとう2桁台になりました。
不顕性感染は着実に広がってきています。

図1:当クリニックでの新型コロナウイルス抗体検査の陽性率

当クリニックでの新型コロナウイルス抗体検査の陽性率

[2]変異ウイルス情報について

変異ウイルス情報について、日々のニュースで報道されている通り、東京都でも、どんどん割合が増えています。

図2:都内の変異株の発生割合(東京都健康安全研究センターによる調査)

都内の変異株の発生割合(東京都健康安全研究センターによる調査)

出所:東京都福祉保健局「都内の変異株の発生割合」
https://www.fukushihoken.metro.tokyo.lg.jp/iryo/kansen/screening.html

東京都の変異ウイルスの発生割合に先行するのは、大阪府です。

4月9日から11日までの3日間の結果が報告されました。
それによりますと、この期間の新規感染者2561人のおよそ2割、535人分の検体を調べたところ、443人、率にして82.8%が変異ウイルスだったということです。
大阪府の検査では▽3月25日までの1週間は43.2%、▽4月1日までの1週間は67.8%、▽4月8日までの1週間は78.5%となっていて、変異ウイルスの割合が徐々に高まっています。

出所:NHKニュース「大阪 変異ウイルス 4月11日までの3日間では検査対象の80%超に」
https://www3.nhk.or.jp/news/html/20210415/k10012975481000.html

変異ウイルスの感染者割合は、時間の経過とともに増加する予測が、厚生労働省に助言する専門家組織「アドバイザリーボード」によって試算されています。

図3:変異株の感染者割合の増加予測(2021年4月13日時点)

変異株の感染者割合の増加予測(2021年4月13日時点)

出所:東京新聞「変異株は重症化しやすい? 感染スピードは違う? 専門家の見解<新型コロナ>」
https://www.tokyo-np.co.jp/article/98385

[3]日本の最新状況

現在、全国の新規感染者数は第3波のピークの半分程度ですが、重症者数は第3波の75%を超える勢いです。

図4:新規陽性者数、累計死亡者数、重症者数(2021年4月21日時点)

新規陽性者数、累計死亡者数、重症者数(2021年4月20日時点)01 新規陽性者数、累計死亡者数、重症者数(2021年4月20日時点)02 新規陽性者数、累計死亡者数、重症者数(2021年4月20日時点)03

出所:厚生労働省「国内の発生状況」(2021年4月21日時点)
https://www.mhlw.go.jp/stf/covid-19/kokunainohasseijoukyou.html#h2_1

[4]世界の最新状況

ワクチン投与の進んだ英国は新規発症、死亡者ともに激減し、日本と同じレベルもしくは下回ってきています。

図5:新規死亡者数(2021年4月20日時点)

新規死亡者数(2021年4月20日時点)

出所:FINACIAL TIMES:Coronavirus tracked: see how your country compares
https://ig.ft.com/coronavirus-chart/?areas=eur&areas=usa&areas=bra&areas=gbr&areas=jpn&areasRegional=usny&areasRegional=usnj&areasRegional=usaz&areasRegional=usca&areasRegional=usnd&areasRegional=ussd&cumulative=0&logScale=0&per100K=1&startDate=2020-09-01&values=deaths

図6:新規感染数(2021年4月20日時点)

新規感染数(2021年4月20日時点)

出所:FINACIAL TIMES:Coronavirus tracked: see how your country compares
https://ig.ft.com/coronavirus-chart/?areas=eur&areas=usa&areas=bra&areas=gbr&areas=jpn&areasRegional=usny&areasRegional=usnj&areasRegional=usaz&areasRegional=usca&areasRegional=usnd&areasRegional=ussd&cumulative=0&logScale=0&per100K=1&startDate=2020-09-01&values=cases

■アジアでの比較
インドが急激に再上昇しています。日本もタイも増えています。
アジアは手放しで安全ではありません。

図7:新規感染者数(2021年4月20日時点)

新規感染者数(2021年4月20日時点)

出所:FINACIAL TIMES:Coronavirus tracked: see how your country compares
https://ig.ft.com/coronavirus-chart/?areas=jpn&areas=ind&areas=sgp&areas=kor&areas=tha&areas=twn&areasRegional=usny&areasRegional=usnj&areasRegional=usaz&areasRegional=usca&areasRegional=usnd&areasRegional=ussd&cumulative=0&logScale=0&per100K=1&startDate=2020-09-01&values=cases

[5]世界のワクチン状況

人口100人当たり何本のワクチンが投与されたか、2回接種が終了した人の割合などです。
日本がずいぶん下のであることが分かります。

図8:世界のワクチン接種状況(2021年4月20日時点)

世界のワクチン接種状況(2021年4月20日時点)03

出所:FINACIAL TIMES ”Covid-19 vaccine tracker: the global race to vaccinate”
https://ig.ft.com/coronavirus-vaccine-tracker/?areas=gbr&areas=isr&areas=usa&areas=eue&cumulative=1&populationAdjusted=1

[6]ワクチンの変異ウイルスへの対応力(モデルナ)

モデルナ社のワクチンを接種した人は、下記の代表的な変異ウイルス(B.1, B.1.1.7, N501Y)に対しても中和抗体を産生することができたという報告でした。
これは自然感染の人の抗体産生量の10倍以上です。

図9:SARS-CoV-2変異体に対する中和抗体反応(ワクチン接種者)

SARS-CoV-2変異体に対する中和抗体反応(ワクチン接種者)

出所:JAMA Online
“Neutralizing Antibodies Against SARS-CoV-2 Variants After Infection and Vaccination” Published online March 19, 2021. doi:10.1001/jama.2021.4388
https://jamanetwork.com/journals/jama/fullarticle/2777898

[7]ワクチンの変異ウイルスへの対応力(ファイザー)

同様にファイザー社のワクチンも各種の変異ウイルス(B.1.1.7, B.1 .351, P.1)に対して抗体を産生できたという報告です。やはりワクチン接種後(各図の右端)は自然感染(各図の左端)に比べて20倍以上の抗体価の上昇を認めます。

図10:SARS-CoV-2感染およびファイザーワクチン1回投与後のウイルス及び変異体に対する中和反応

SARS-CoV-2感染およびファイザーワクチン1回投与後のウイルス及び変異体に対する中和反応

出所:NEW ENGLAND JOURNAL of MEDICINE
“Neutralizing Response against Variants after SARS-CoV-2 Infection and One Dose of BNT162b2”
https://www.nejm.org/doi/full/10.1056/NEJMc2104036

[8]日本人でのワクチン接種後のアナフィラキシー頻度に関して

医療従事者向けに接種が始まったファイザーワクチンに関して、接種後の副反応を伝える報道は多くありました。
ただ、国際的な基準に照らして検証するとアナフィラキシーに該当するケースは、100万回接種あたり81件に限られます。詳しく見ていきます。

厚生労働省は3月26日に専門部会を開き、新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)ワクチンのトジナメラン(商品名コミナティ)接種後に生じた副反応について検討。2月17日から3月21日までに57万8835例が接種を受け、181件でアナフィラキシー疑い例が報告されたと発表した。このうち国際的な基準(ブライトン分類)により評価したところ、47例がアナフィラキシーに該当し、約半数に食品や医薬品などのアレルギー既往歴、約2割に喘息があったことが判明した。大半が軽快している。

■100万回接種当たり81件で、欧米を上回る
国内のトジナメラン接種者におけるアナフィラキシーの発現率はおよそ1万2,000回接種に1件、100万回当たり81件で、米国の4.7件、英国の19.4件を上回るが、接種総数など複数の理由から単純な比較は難しいとしている。発生頻度は女性で高いとされているが、今回の報告でもアナフィラキシーが生じた47例中44例(94%)が女性であった。

47例の既往歴や基礎疾患を見ると、医薬品(造影剤など)、食物、動物などのアレルギーの既往が23例で、49%を占めていた。それ以外では、食物・動物・殺虫剤のアナフィラキシーの既往歴と殺虫剤のアレルギー歴が各1例あった。基礎疾患で、最も多かったのは気管支喘息の9例、次いで花粉症の5例、慢性蕁麻疹、アトピー性皮膚炎が各2例、高血圧1例などだった。小児喘息を含め喘息の既往歴は3例だった。

■ポリソルベートを含む医薬品に重度過敏症の既往歴がある人も注意
トジナメランによるアナフィラキシーの原因として、同ワクチンの有効成分であるmRNAが封入されている脂質ナノ分子を形成する脂質二重膜の水溶性保持目的で使用されているポリエチレングリコール(PEG)が原因とされている。

PEGを含むワクチンは国内ではトジナメランが初めてとなるが、PEGとの交叉反応性が懸念され、PEGに似た構造を持つポリソルベートを含むワクチンは国内に複数存在する。またワクチン以外にも、乳化剤としてさまざまな食品に用いられている。

日本アレルギー学会が策定し、今年(2021年)3月1日に公開した指針「新型コロナウイルスワクチン接種にともなう 重度の過敏症(アナフィラキシー等)の管理・診断・治療」では、特にPEGあるいは PEG と交叉反応性があるポリソルベートを含む薬剤に対して重度の過敏症を来した既往がある人では、専門医による適切な評価とアナフィラキシーなどの重度の過敏症発症時の十分な対応ができる体制の下でない限り、「トジナメランの接種は避けるべきである」としている。「重度の過敏症」に該当するのは、アナフィラキシーあるいは全身性の皮膚・粘膜症状、喘鳴、呼吸困難、頻脈、血圧低下等のアナフィラキシーを疑わせる複数の症状を呈した場合としている。

なお、トジナメランの1回目接種後に遅発性の局所反応(紅斑、硬結、そう痒症など)が生じただけであれば2回目接種は可能という。一方、1回目のワクチン接種で重度の過敏症を呈した場合には「同ワクチンの接種は避けるべき」としている。

出所:Medical Tribune「アナフィラキシーは1万2,000回に1件」
2021年04月02日 18:34配信
https://medical-tribune.co.jp/news/2021/0402535895/

[9]コロナワクチン後の血栓症

アストラゼネカのワクチン接種後の副反応として、血小板の減少を伴う血栓症があるとの研究発表がありました。詳しく見ていきます。

■研究の背景:自然に発症するHITのワクチン関連変異体
アストラゼネカのChAdOx1 nCov-19ワクチン接種後に、血栓症(脳静脈血栓症や内臓静脈血栓症が中心)と血小板減少症を来すワクチン誘発性免疫性血栓性血小板減少症 (vaccine-induced immune thrombotic thrombocytopenia :VITT)に関する2件の報告(ドイツとノルウェー)がN Engl J Med(2021年4月9日オンライン版、2021年4月9日オンライン版)に掲載された

VITTはヘパリン起因性血小板減少症(heparin-induced thrombocytopenia:HIT)と病態が類似し、自然に発症するHITのワクチン関連変異体と位置付けているようである。

■ポイント:ワクチン接種後に免疫性血栓性血小板減少症が発生
ドイツとオーストリアではChAdOx1 nCov-19ワクチン接種後に11例が血栓症または血小板減少症を発症した (N Engl J Med 2021年4月9日オンライン版)。11例中9例は女性で、年齢の中央値は36歳(範囲22〜49歳)であった。致命的な頭蓋内出血を呈した患者1例を除き、ワクチン接種の5〜16日後から1つ以上の血栓性イベントを呈した。
1つ以上の血栓性イベントが生じた11例中9例は脳静脈血栓症、3例は内臓静脈血栓症、3例は肺塞栓症、4例はその他の血栓症を呈していた。6例が死亡。5例が播種性血管内凝固症候群(DIC)を発症した。

一方、ノルウェーではSARS-CoV-2に対するChAdOx1 nCoV-19アデノウイルスベクターワクチン初回投与から7〜10日後に、32~54歳の医療従事者5例が静脈血栓症と血小板減少症を呈してオスロ大学病院に入院した(N Engl J Med 2021年4月9日オンライン版)。脳静脈血栓症4例、内臓静脈血栓症1例。4例は静脈内免疫グロブリン投与で治療、3例(37歳女性、42歳女性、54歳女性)が死亡した。

■考察:SARS-CoV-2ワクチンによる血栓症にも注意が必要
4月7日に欧州医薬品庁(EMA)は、アストラゼネカのワクチンについて血小板減少を伴う血栓症を「非常にまれな副反応」として記載すべきと結論した。血栓症は、ワクチン接種後2週間以内に60歳未満の女性に発生することが報告されている。

4月7日に英国政府は30歳未満に対する接種は推奨しないことを決めた。英国では3月末までにアストラゼネカのワクチンが2,020万回分接種され、79例の血栓イベント(血小板減少を伴う脳静脈血栓症44例、それ以外の血栓症35例、死亡19例)が発症しているという。

さらに、EMAは4月9日にジョンソン・エンド・ジョンソンのSARS-CoV-2ワクチン接種後に血栓症と血小板減少症を来した4例(米国3例、1例は臨床試験で発症、死亡1例)を報告した。

VITTの特徴
① アストラゼネカのChAdOx1 nCov-19ワクチン接種約1〜2週後に発症
② 1回目の接種後に起こる(2回目の接種後の発症は限られている)
③ 脳静脈血栓症や内臓静脈血栓症が主体で、肺塞栓症や動脈血栓を合併することもある
④ 若年女性に多い(ほとんどが60歳未満)
など

出所:Medical Tribune「ワクチン誘発性免疫性血栓性血小板減少症(VITT)を提唱」
2021年04月14日05:00配信
https://medical-tribune.co.jp/rensai/2021/0414536026/

■ワクチン接種による血栓症リスクの大きさに関する研究もあり
ワクチン接種による副反応のリスクが大きいのかどうか。その検証についての報道もあります。

英オックスフォード大の研究チームは2021年4月15日、脳内で血栓が生じるリスクは、英アストラゼネカの新型コロナウイルスワクチンの接種よりも、未接種でコロナに感染する場合の方が8~10倍高いとの分析結果を発表した。

米医療データベースに基づく研究で50万人のコロナ患者の脳静脈洞血栓症(CVST)を調べたところ、発症率は100万人当たり39人の計算になったという。一方、欧州医薬品庁(EMA)はアストラゼネカのワクチン接種後の同発症率を100万人に5人としている。
オックスフォード大のマクシム・タケ教授によると、コロナ感染後でもワクチン接種後でも、CVSTによる死亡率は同じ約20%だった。

出所:ロイター「コロナ感染による血栓症のリスクはワクチン接種の血栓症の8-10倍」
https://jp.reuters.com/article/health-coronavirus-vaccines-clots-idJPL4N2M9229?il=0

このほかにも、
英国では単純計算で、
・ワクチン接種後の血栓症の発症は25万人に1人ほど
・死亡は100万人に1人ほど。
朝日新聞によると、ワクチンによる血栓症とほかの血栓症との比較として、
・経口避妊薬をのんでいる女性で2千人に1人ほど
・エコノミークラス症候群は1千人に1人ほど
という報道もあります。

従って、欧州の規制当局の発表通りで
「ワクチン接種の総合的なメリットは、リスクを上回る」と考えられます。

[10]少量アスピリン療法は有効の可能性あり

ワクチン以外にも、治療法や重症化予防策についての研究も進んでいます。
詳しく見ていきます。

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)患者では低用量アスピリンの服用により人工呼吸器装着リスクが44%低下することが分かった。
米・George Washington UniversityのJonathan H. Chow氏らは、COVID-19で入院した患者が対象の多施設コホート研究で人工呼吸器装着などの重症化や転帰に対するアスピリンの効果を検討、結果をAnesth Analg(2021; 132: 930-941)に発表した。

■ICU入室、院内死亡も減少
COVID-19患者では凝固能が亢進し、重症例の一部は血栓リスクが上昇する。そこで、Chow氏らは血栓予防作用を有するアスピリンの服用がCOVID-19患者の重症度、転帰に及ぼす影響を検討した。
アスピリン服用群では
人工呼吸器装着リスクが44%
ICU入室リスクが43%低下した。
同氏らは「低用量アスピリンの服用はCOVID-19入院患者の人工呼吸器装着、ICU入室、院内死亡の有意なリスク低下と関連していた」と結論している。またアスピリンは抗血小板作用、抗炎症作用を有しているため、「凝固傾向が非常に高く、血管内皮細胞機能不全が生じるCOVID-19のような疾患ではアスピリンの肺保護作用が増強する可能性がある」「アスピリンの抗炎症作用がCOVID-19の肺保護効果に寄与している可能性がある」と推論した。

出所:Medical Tribune「アスピリンでコロナ人工呼吸器装着44%低下 ~米・COVID-19入院患者の多施設コホート研究」2021年03月22日 05:00配信
https://medical-tribune.co.jp/news/2021/0322535723/

[11]台湾の政策に関して

最後に、台湾のパンデミック政策をご紹介します。
台湾は、ITを活用しながら新型コロナウイルスの封じ込めに成功している、という報道をご覧になった方もいらっしゃると思いますが、その「台湾モデル」は、過去の経験・教訓が反映されていました。
曰く「ワクチンがなくても出来ることがある。」
今、第4波を迎えている日本にとって、様々な示唆があるように感じます。

台湾は新型コロナとどうたたかったか:台湾保健相の手記

台湾は2003年のSARSの経験を生かして、新型コロナに対して、よく考慮された対策を迅速かつ透明性を持って実行した。これらによって、新型コロナ対策の手本としての「台湾モデル」が賞賛されるようになった。
当初台湾は、中国で流行が始まった新型コロナに真っ先に侵されて甚大な被害がもたらされると予想されていた。しかし、適切な対策が講じられ、感染者はほぼ海外からの入国者に限られ、台湾内での大きな地域的アウトブレイクは発生しなかった。したがって厳重なロックダウンを行う必要がなく、台湾市民はほぼ通常の生活を続けることができた。

台湾は、2003年のSARSの経験を生かして、感染症対策に関する管理システム、法律、訓練、関連政府機構の見直しを実行して、感染症対策の枠組みを最適化した。
SARS対策の教訓から、効果的な指揮命令システムを作ることが最も重要という認識のもとに、政府の各機関を統合して将来の感染症流行に備えるためにCentral Epidemic Command Center (CECC中央流行疫情指揮中心)を設置した。

台湾はパンデミック対策に関する4つの原則を作った:
①迅速な対策
②早期展開
③熟慮された対策
④透明性
民主的プロセスと市民の協力、テクノロジーを活用することにより、多くの困難を打破し、パンデミックに対する「台湾モデル」を作り上げた。

パンデミック初期に、いくつかの重要な対策が迅速に講じられた。
2019年12月31日に武漢で原因不明の肺炎の多発が報告されたことを受けて、武漢からの入国者の緊急検疫が開始された。さらに、CECCは2020年1月20日に新型コロナパンデミック対策に不可欠な省庁間の協力と資源の統合を行った。
蔡英文総統は、ハイレベルの国家安全会議を招集し、1月22日に疾病予防指令を発出した。

WHOは1月30日に新型コロナが「国際的に懸念される公衆衛生上の緊急事態」(Public Health Emergency of International Concern:PHEIC)であると宣言したが、台湾はすでに一連の対応策を実施済みだった。

例えば、パニックによるマスク不足を見越して、経済部は企業に短期間にマスクを増産するよう命令を行った。
さらに、CECCは交通部、出入国管理庁、外交部、大陸委員会に対して、パンデミックの状況に対応して国境管理を適切に統合して行うよう指示を行った。
新型コロナ感染拡大を防ぐためには、入国者とその濃厚接触者が14日間の自宅隔離することが死活的に必要である。

この隔離対策を実施するために、われわれは台湾の進んだ情報テクノロジーを全面的に活用した。
例えば、すべての入国者の情報を記録して検疫を行うシステムを作り上げた。
自宅隔離すべきすべての人々が隔離エリアにとどまり、プライバシーに配慮しながらサポートするために、隔離の必要な人々の位置情報を、携帯電話を通じて取得し把握する「digital fencing systemデジタル囲い込みシステム」を完成させた。
さらに、台湾の包括的医療保険データベースをもとに、個々の患者の旅行、職業、濃厚接触、クラスター曝露歴を入手できるようにした。
また、各県の当局がケアとサポートセンターを立ち上げ、自己隔離中の人々すべてに食料を届け、医療ケアと相談が可能となる仕組みも作った。

パンデミックの状態に合わせて、対策を常に見直す必要がある。
例えば、当初、人々は争ってマスクを買いに走ったために、マスクが不足し、パニックが広がった。
われわれは、マスク増産を企業に指示し、医療保険データベースを活用して、すべての市民に姓名ベースのマスク配給システムを作った。
これによりすべての人々が比較的安い価格でマスクを入手できるようになった。

さらに、2020年3月はじめに、われわれの予測を越えてヨーロッパで感染者数が激増したため、多くの台湾市民が帰国し始めた。これは台湾への感染が増加することが予測された。
これに対して、われわれは3月中旬に国境管理職員を増員し、帰国者を運ぶ指定タクシー制度を作り検疫用のホテルを確保した。
これらの結果、帰国者による市中感染増加を防ぐことができた。

台湾では、感染を防ぐための対策には法律の裏付けと内容に対する市民の監視が不可欠である。
人々の信頼と指示を獲得するために、CECC設立以来、記者会見など様々なメディアを通じて新型コロナ情報を市民に広く知らせ、誤った情報を是正してきた。CECCの活動は人々に賞賛された。
新型コロナパンデミックは、われわれに、新たな感染症のアウトブレイクに常に対応できるよう準備が必要であることを教えた。

アウトブレイクが発生したら、素早く対策を発動する必要がある。ワクチンはこの戦いの最後の手段である。
今回のパンデミックの始まったときに、台湾は「Taiwan Can Help and Taiwan is Helping!」の精神で80か国以上に医療物資を寄付した。
さらに、ワクチンがなくとも、デジタルテクノロジーを活用することでこのパンデミックをしっかり抑え込めると信ずる。私たちの経験を役立てていただければ幸いである。

出所:Chen SC(中華民国保健相:Ministry of Health and Welfare, Taipei, Republic of China (Taiwan))
“Taiwan’s experience in fighting COVID-19”
Nature Immunology. 2021 Mar 26.
doi: 10.1038/s41590-021-00908-2. Epub ahead of print. PMID: 33772224
https://www.nature.com/articles/s41590-021-00908-2
邦訳ご協力:松崎道幸先生(道北勤医協旭川北医院)

※当ページの内容は「2021年4月22日」時点の情報です。