医療・健康コラム

Vol.16(2020/11/30) 当クリニックでの抗体検査の結果/日本と世界の第3波の動向/ワクチンの開発状況/マスクとフェイスシールド/ほか

第3波ともいわれる感染拡大が全国で続き、感染者数の増加を伝える報道が目立っています。当面は、一人ひとりが感染予防策を徹底し、大きな波にしないための取り組みが欠かせません。
今号では、日本と世界の感染動向を確認しながら、ワクチンの開発状況、スーパーコンピュータ富岳が算出したマスクとフェイスシールドの効果について取り上げています。感染症予防アイテムの効果検証により、感染予防策についての考察は深まりつつありますが、ワクチン開発は途上です。更なる研究の成果が待たれるところです。

今回のトピックス

1. 当クリニックの抗体陽性者について

2. 日本と世界の動向

3. ワクチンの状況

4. マスクとフェイスシールドの有効性:富岳シミュレーション

[1]当クリニックの抗体陽性者について

当クリニックでは発熱や咳などの症状がない(過去2週間以内にもなかった)方を対象に実施しておりますが、10月15日から11月14日までの初回検査の受検者は383人で、抗体陽性者は11人(陽性率は2.87%)でした。これまでの平均値1.44%と比較して2倍の数値です。明らかに増えてきています。

今までの陽性例(初回陽性は35人、3か月後に2回目の経過観察は5人)をまとめてみました。

(図1)抗体検査の陽性者の年代構成

抗体検査の陽性者の年代構成

人間ドックや外来での検査ですので、クラスターを起こしやすい20代の人は少なく、30代から50代が中心です。

(図2)抗体陽性者の性別

抗体陽性者の性

男性は74%、女性は26%でした。

(図3)抗体陽性者の症状有無

抗体陽性者の症状有無

抗体陽性者の過去の症状を確認すると、発熱症状は20%のみ。
家庭内やスポーツジムでの感染(濃厚接触)が疑われる無症状者と感染経路も不明な無症状者が69%と大多数でした。

(図4)症状別 抗体価

症状別 抗体価

無症状の人には抗体価が低めの人が多く認められましたが、高い人も数名見受けられ、必ずしも症状と一致しないことが判りました。

(図5)抗体価の変化(初回→3ヶ月後)

抗体価の変化(初回→3ヶ月後)

3か月後に抗体価を再度測定できた5人の変化です。4名は抗体価が低下してきていました。
しかしながら1人のみ上昇しており、期間内の不顕性再感染の可能性が否定できません。

[2]日本と世界の動向

●日本:第3波の到来。やはり増加してきています。
(図6)日本の動向陽性者数入院治療等を要する者の数重傷者数死亡者数

出所:厚生労働省ホームページ
https://www.mhlw.go.jp/stf/covid-19/kokunainohasseijoukyou.html#h2_1
※11/28時点のデータ

●世界の状況

米国が圧倒的に多い状況です。しかし死亡者はヨーロッパで第1波より増えています。

(図7)国別感染者数の推移

国別感染者数の推移

出所:外務省・海外安全ホームページ 各国・地域における新型コロナウイルスの感染状況
https://www.anzen.mofa.go.jp/covid19/country_count.html

(図8)日別死亡者数の推移

日別死亡者数の推移

日本の死者数は米国、英国より少ないですが、中国、韓国より多いことが分かります。
(縦軸は対数グラフです)

(図9)死亡者数の比較(米国、英国、日本)

死亡者数の比較(米国、英国、日本)

(図10)死亡者数の比較(日本、韓国、中国)

死亡者数の比較(日本、韓国、中国)

出所:Finacial Times Coronavirus tracker: the latest figures as countries fight Covid-19 resurgence
https://www.ft.com/content/a2901ce8-5eb7-4633-b89c-cbdf5b386938
※11/29時点のデータ

[3]ワクチンの状況

ファイザー、モデルナ、アストロゼネカがやはり有望です。スパイク構造を人工的に変えて免疫誘導の効率を高めているそうです。そのために有効率が90%以上という大変に高い数値が出ています。

●世界のワクチン

アメリカのCDC=疾病対策センターの会議などで示されたデータによりますと
「ファイザー」のワクチンは、マイナス60度から80度であれば、最大半年間、保存が可能で、2度から8度だと5日間、保存が可能だとしています。
「モデルナ」のワクチンは、マイナス20度で最大半年間、保存が可能で、2度から8度では30日間、保存できるとしています。

(図11)ワクチン開発2社の状況

死亡者数の比較(日本、韓国、中国)

出所:NHK NEWS WEB新型コロナ「ファイザー」と「モデルナ」のワクチンの特徴は
https://www3.nhk.or.jp/news/html/20201117/k10012716811000.html

政府でワクチン開発などを主導する”ワープ・スピード作戦”の責任者・スラウイ首席顧問が、早ければ来月11日にもワクチン接種が始まるという見通しを示しました。ワクチンは製薬大手『ファイザー』が、20日、当局に緊急使用許可を申請したものです。最終段階の臨床試験で示された有効性は95%とされていていて、日本政府も1億2000万回分の供給で合意しています。「人口の約7割が接種を受ければ、来年5月ごろに集団免疫が成立するだろう」
イギリスでは、今週中にファイザーのワクチンが、承認される可能性が伝えられているほか、ドイツでも保健相が、来月にもワクチンの接種が始まる可能性があると発言しています。気になるのは安全性です。ファイザーは「深刻な安全上の懸念は報告されていない」としています。ただ、ワクチン開発は、通常、年単位の時間がかかるものです。
“ワープ・スピード作戦”・スラウイ首席顧問:「長期的な安全性はわかっていないが、毎日1000~2000人の死者が出ている。経過観察に長い時間をかける余裕はない。40年間で数十万人のワクチン治験者が示したのは、重い副反応の90~95%は接種から40日以内に起きることだ」
アメリカ国立アレルギー感染症研究所・ファウチ所長:「安全性が開発スピードの犠牲になってはいない。科学的公正性も損なわれていない。この種のワクチンにおける科学の驚異的な進歩によって、今まで数年かかった作業が数カ月に短縮できた」

出所:livedoorNEWS ファイザー”ワクチン”米で来月11日にも接種開始
https://news.livedoor.com/article/detail/19268690/

●日本のワクチン

新型コロナウイルス DNA ワクチン: 第 2/3 相臨床試験について
現在開発を進めている新型コロナウイルス DNA ワクチンにつきまして、治験施設における治験審査委員会(IRB)において審議・承認されましたら、第 2/3 相臨床試験を開始いたします。本試験では、第 1/2 相試験での用法用量における安全性、免疫原性を、症例数を増やして評価します。また、本試験で用法用量を確定したのち、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)発症予防効果を検証するプラセボ対照の大規模な第 3 相比較試験を実施する予定です。

【新型コロナウイルス DNA ワクチン第 2/3 相臨床試験概要】
  • 目標症例数:500 例(用量 2.0mg:①250 例による 2 週間間隔での 2 回接種、②250 例による 4 週間間隔での 2 回接種、①②はそれぞれプラセボを 50 例含む)
  • 実施施設数: 関西および関東エリアの 8 施設
  • 試験期間: 2020 年 11 月~2022 年 3 月(接種は 2021 年 3 月頃に完了予定。試験期間は、接種後52 週間のフォローアップ期間を含む)

出所:アンジェス株式会社プレスリリース
「新型コロナウイルス DNA ワクチン: 第 2/3 相臨床試験について」
https://www.anges.co.jp/pdf_news/public/hYbPKBHSdQMD9pG3d0LJCmgd1U0OAXPD.pdf

[4]マスクとフェイスシールドの有効性:富岳シミュレーション

理化学研究所が、スーパーコンピュータ「富岳」で行っている新型コロナウイルス対策に関する研究開発のうち、マスクの種類やフェイスシールドごとの効果についてシミュレーション結果を発表しています。
これを見ると、不織布マスクでないと大きく漏れ、フェイスシールドはほぼ無効なことが良くわかります。

下記の図12~14は、黄色は隙間からの漏出、青は透過、赤は付着です。

(図12)マスクの効果(不織布マスク、手作り布マスク(ポリエステル相当)、手作り布マスク(綿相当))

マスクの効果

粒子の大きさで比べると、不織布マスクでも小さい粒子は30%漏れています。

(図13)マスクの効果(粒子の大きさごとの比較)

マスクの効果

不織布マスクと比べると、フェイスシールドでは小さい粒子~中程度の粒子までほぼ100%漏れます。

(図14)マスクとフェイスシールドの比較

マスクの効果

出所:理研、スパコン富岳で不織布や手作りマスクの飛沫の差を解析
https://pc.watch.impress.co.jp/docs/news/1272611.html

◆まとめたもの:マスクなしを100%としたときの、吐き出し飛沫量と吸い込み飛沫量のまとめたものが次の図です。マスクを着用していれば、咳をしても飛沫を抑え、遠くに飛沫が飛ばない。頬と鼻の部分にマスクの隙間があっても8割程度の飛沫を抑えられる。自分を守る意味でも7割程度抑えられるという意味では、マスクの着用は欠かすことができないと改めて示された格好です。

(図15)まとめ

マスクやフェイスシールドの効果

出所:豊橋技術科学大学プレスリリース(2020/10/15)
https://www.tut.ac.jp/docs/201015kisyakaiken.pdf

※当ページの内容は「2020年11月30日」時点の情報です。