医療・健康コラム

Vol.5(2020/4/30)無症候性の動向/ウイルス検出率と感染力/抗体の持続期間/ほか

世界各国の研究者からの新型コロナウイルスに関する論文投稿が増えつつあり、新型コロナウイルス感染症のメカニズムが少しずつ明らかになってきています。

今回は、これら論文を引用しながら、新型コロナウイルス感染症の、特に検査(PCR検査、抗体検査)の有効性について纏めております。抗体検査は今後、標準的な検査となり皆様へのご提供が可能になると考えていますが、まずは検査の信頼性および有効性の確認が必要です。
当院においても基幹病院などの協力のもと、しっかりと検証を進めていきます。

私たちが今まで過ごしていた日常や常識が変わりつつありますが、この状況を悲観しすぎることも慌てる必要もありません。
いまはお一人おひとりができる予防策、手洗いやソーシャルディスタンスなどを徹底して行いましょう。

[1]無症候性COVID 19の患者が、非常に多いかもしれません。

(1) ニューヨークの事例:

出所:Universal Screening for SARS-CoV-2 in Women Admitted for Delivery
https://www.nejm.org/doi/full/10.1056/NEJMc2009316

3月22日から4月4日にかけて、 New York-Presbyterian Allen 病院とColumbia University Irving メディカルセンターで出産した215人の妊婦を調べたところ15.4%の妊婦が新型コロナPCR検査陽性で、新型コロナ感染症の症状を有したのは1.9%だけでした。

ニューヨーク市の人口を約850万人とすると、なんと131万人がその時点で感染している可能性があり、症状がある人はそのうちの16万人強という計算です。4月22日の時点でのニューヨーク州全体の感染患者数は25万人ですから、あながち、おかしな数字ではありません。問題は「本当の感染者数が、症状のある人の8.1倍も存在する」ということです。

20200428_01_01.jpg

また4月23日にクオモ知事がTVで発表したデータでは、ニューヨーク州全体の新型コロナウイルス抗体保有率は13.9%と高率で、特にニューヨーク市では21.2%にまで達しました。つまりニューヨーク市の人口を850万人とすると180万人の既感染ということになりますが、上記数値の規模感と矛盾がありません。

(2) カリフォルニアの事例:

出所:COVID-19 Antibody Seroprevalence in Santa Clara County, California
doi: https://doi.org/10.1101/2020.04.14.20062463

4月3日から4日にカリフォルニア州サンタクララ郡で3300人に新型コロナウイルス抗体検査を施行しました。結果から推定された結論として、サンタクララ郡の抗体陽性者(抗体が陽性になった既感染者のグループ)は 2.5%― 4.2% であり、確定された患者数の50-85倍もの数でした。

同様に、ロサンゼルス郡の調査によると、4月9日時点で抗体陽性者(抗体が陽性になった既感染者のグループ)は 2.8%- 5.6% であり、確定された患者数の28-55倍もの数にのぼることが明らかとなりました。

出所:https://news.yahoo.co.jp/byline/iizukamakiko/20200421-00174391/

(3) 東京の事例:

出所:新型コロナウイルス感染症に関する当院の状況について
http://www.hosp.keio.ac.jp/oshirase/important/detail/40171/

慶應義塾大学病院で4月13日から4月19日の期間に行われた術前および入院前PCR検査において、新型コロナウイルス感染症以外の治療を目的とした無症状の患者さんのうち5.97%の陽性者(4人/67人中)が確認されました。

この慶応義塾大学病院の結果を東京都に当てはめると、その時点で6%の人(約84万人)が感染していた可能性がある、ことになります。ちなみに4月19日時点で東京都の公表患者数は3,000人で、84万人といえば、その280倍もの数になります。

これら3つの事例から言えることは、COVID-19に感染しても何の症状も出ない方(無症候性)の人数は、実際の患者数よりももっと多い可能性がある、ということです。
但し、何も症状も出ない方が多いからといって、それだけで新型コロナウイルスが広がる訳ではありません。 最近の論文では新型コロナウイルスの感染力が明らかになりつつあります。次のニュースで解説します。

[2]コロナウイルスの検出率と感染力

(1) 感染者の発病の2、3日前からCOVID-19の二次感染が始まっています

出所:Nature Medicine ~Temporal dynamics in viral shedding and transmissibility of COVID-19 Nat Med. 2020;10.1038/s41591-020-0869-5. doi:10.1038/s41591-020-0869-5
https://www.nature.com/articles/s41591-020-0869-5

COVID-19確定例94名のウイルス排出状態と二次感染者の発病との時間的関係を検討しところ、二次感染者の44%は一次感染者の症状の出る前に感染を受けていたと推定されました。COVID-19の平均潜伏期間は5.2日と報告されているので、症状の出る2.3日前から他人に感染しやすくなり、最大感染力は、症状の出る前日もしくは当日であろうと推測されました。

20200428_01_02.jpg

上記のように、感染者の発病の2、3日前からCOVID-19の二次感染が始まっているという論文の発表がありました。厚生労働省が4月21日、新型コロナウイルス感染症の患者と濃厚接触したと判断される人の範囲を「症状が出る2日前からの接触」に変更した背景には、こうした論文があります。

(2) 鼻咽頭ぬぐい液からのPCRが陽性でも、発症後14日では感染力はありません

出所:Nature. 2020 Apr 1.  Virological assessment of hospitalized patients with COVID-2019.
https://www.nature.com/articles/s41586-020-2196-x_reference.pdf

20200428_01_03.jpg20200428_01_04.jpg 20200428_01_05.jpg

現在実施されているPCR検査の多くは、鼻や喉の奥に綿棒などを入れてぬぐった粘液(鼻咽頭ぬぐい液)を使って検査をします。
図aでは鼻咽頭ぬぐい液と唾液の感度が同じであり、やはり21日過ぎても高率に検出できることが分かります。また便中からウイルスRNAは高率に検出されるが、感染力を検討したところ感染力は無いとのことでした。また血中と尿中にはウイルスそのものは検出されませんでした。

図d, fからは、新型コロナに対する抗体は5日目から出現し9日目にはほぼ全例に、14日目には全例で認められました。またウイルス感染活性が認められたのは11日目までと考えられました。

(3) 今回のCOVID-19血清抗体価の時間的変遷:中国での検討

出所:International Journal of Infectious Diseases ~Diagnostic value and dynamic variance of serum antibody in coronavirus disease2019. Int J Infect Dis. 2020 Apr 3
https://www.ijidonline.com/article/S1201-9712(20)30198-3/fulltext

20200428_01_06.jpg

IgM抗体は早期に上昇するわけではなく、IgG抗体の方が反応は良く、発症14日目にはIgG抗体は全例に認められました。14日目でも約半数でPCRは陽性でした。

(4) 迅速簡易検出法(イムノクロマト法)による血中抗SARS-CoV-2抗体の評価

出所:国立感染症研究所 迅速簡易検出法(イムノクロマト法)による血中抗SARS-CoV-2抗体の評価
https://www.niid.go.jp/niid/ja/diseases/ka/corona-virus/2019-ncov/9520-covid19-16.html

mt_img_01_200409.PNG

国立感染症研究所は4月1日に日本での37症例の血清で血中抗体値の変動をみました。表で示されるように、上記の結果と同じくIgM抗体は早期には出現せず、IgG抗体の方が感度は高く、14日目にはほぼ全例で認められました。

上記の結果をまとめると
  • 症状の出る2日前から感染させる可能性があり、発症後14日を過ぎると感染性は低い
  • PCR検査では14日以降でも陽性になる可能性がある
  • IgG抗体は発症後5日目ごろから出現し、14日目にはほぼ全例で認められる
  • IgG抗体検査だけ行って陽性の場合には、最大10日間(発症5日目と仮定すると14日目まで)隔離しているとウイルスを感染させる可能性がほぼ無くなる
  • IgG陽性でPCR陰性の場合は感染させる可能性はほぼ無いと考えられる。しかしながらIgG抗体があっても100%自らの再感染を防げるかどうかは不明である

ということになります。
症状の出たタイミングを見ながら、PCR検査、抗体検査を上手に組み合わせて検査を行う必要がありそうなことが分かってきました。

[3]PCR検査のための鼻咽頭ぬぐい液と唾液

上記Natureの論文のように鼻咽頭ぬぐい液と唾液の感度は同じでした。

道北勤医協旭川北医院院長・松崎道幸先生が紹介されている他の論文(論文1)でも、SARS-COV2以外のコロナウイルスやそのほかの呼吸器感染ウイルスを、唾液からも検出することができ、鼻腔咽頭ぬぐい液検査成績との一致率は90%以上であると報告されている。

また、メルボルン王立病院のCOVID-19症例についての報告(論文2)でも、鼻腔咽頭ぬぐい液からのPCR検査でSARS-COV2陽性の患者39名の同時採取された唾液のPCR検査では33名が陽性(感度84.6%; 95% CI 70.0%-93.1%)、鼻腔咽頭ぬぐい液PCR検査で陰性者50名の唾液のPCR検査では1例が陽性(特異度98%)だった。同一患者から同時に鼻腔咽頭ぬぐい液と唾液(1~2cc)を採取して測定すると唾液の方がウイルス量は少なかった

20200428_01_07.jpg

唾液採取は、医療機関に負担をかけずに検体が取れるので、PCRを広く行うためには非常に重要な方法であると考えられます。アメリカではすでに唾液を使ったPCR検査の実施が開始されていることから、今後日本においても導入が期待されます。

出所:論文1)A Review of Salivary Diagnostics and Its Potential Implication in Detection of Covid-19. Cureus. 2020;12(4):e7708. Published 2020 Apr 17. doi:10.7759/cureus.7708
論文2)Saliva as a non-invasive specimen for detection of SARS-CoV-2. J Clin Microbiol. 2020;JCM.00776-20. doi:10.1128/JCM.00776-20
https://jcm.asm.org/content/jcm/early/2020/04/17/JCM.00776-20.full.pdf

[4]新型コロナウイルス抗体ができると、もう心配ないでしょうか?

4月初めの中国のFudan Universityからの報告では、約30%の患者さんは新型コロナウイルスの抗体を持っていないとのことでした。上記の報告では14日目にはほぼ全例抗体をもっているようです。今後の大規模研究の結果が待たれます。

実際、コロナウイルス抗体は長続きしないようです。毎年風邪をひくことがその証拠です。
古い論文ですが、ボランティアに通常のコロナウイルスを鼻腔感染させ、その後の血中抗体の変化を見たものがあります。

20200428_01_08.jpg

出所:Epidemiol. Infect. (1990), 105, 435-446 435 Printed in Great Britain
The time course of the immune response to experimental coronavirus infection of manhttps://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC2271881/

上図のように中和抗体は感染3週間後にピークを迎え、3か月後には半分に低下、1年後にはほぼ無くなっていました。

WHOは抗体ができても再感染しないわけではないと警告しています。これは上記の結果からも言えることです。
ワクチンが出来ても複数回接種が必要でしょう。また一度新型コロナウイルスに感染して治っても、3か月もしたら再度感染しやすくなっていると考えて、一人ひとりができる予防策(手洗いやソーシャルディスタンスなど)を徹底して、現在の生活上の注意を守っておくことが大事でしょう。

※当ページの内容は「2020年4月30日」時点の情報です。