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Vol.6(2020/5/14)世界の状況/日本の状況/ワクチンの有効性と抗体依存性感染増強/治療薬の最新情報/ほか

緊急事態宣言の延長や解除の動向に揺れ動いている5月前半ですが、改めて新型コロナウイルス感染症の現在の動向を確認しながら、毎年流行する感染症の1つである「インフルエンザ」に着目した研究仮説を紹介いたします。

新型コロナウイルス感染症の医学研究は、国内外においてまだまだ現在進行形という状況であり、今すぐ皆さまに還元できる「特効薬」がある訳ではありません。

東京ミッドタウンクリニックとしては、最新の研究状況にアンテナを張り、信頼性の高い情報および検査を皆さまへいち早くご提供できるよう取り組んでまいります。
現時点におきましては、ご自身ができる予防策、特に手洗いやソーシャルディスタンスなどの徹底が肝要です。

今回のトピックス

1. 新規死亡者数の推移

2. 新型コロナウイルス感染症の実際の影響度

3. ワクチンの有効性と抗体依存性感染増強(ADE)現象について

4. インフルエンザと新型コロナウイルス感染症の関連

5. 治療薬の最新情報まとめ

[1] 新規死亡者数の推移

以下、5月12日時点の世界のデータ(図1:FINACIAL TIMES)と、4月末時点の日本のデータ(図2:厚労省専門家会議資料)です。世界全体の日々の死亡者数は、ようやく減少しつつあるようです。日本のグラフには、まだ明確には出ていませんが、今後同様の傾向となることが期待されます。

(図1)

Vol6_図1_0512時点.png

出所:Coronavirus tracked: the latest figures as countries fight to contain the pandemic
https://www.ft.com/content/a26fbf7e-48f8-11ea-aeb3-955839e06441

(図2)新規死亡者数、累積死亡者数の推移

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出所:厚生労働省 新型コロナウイルス感染症対策専門家会議「新型コロナウイルス感染症対策の状況分析・提言(5月4日)」P16
https://www.mhlw.go.jp/content/10900000/000629000.pdf

[2] 新型コロナウイルス感染症の実際の影響度

過去のその時期の平均死亡者数と比較するのが一番良い指標です。
上記と同じく、5月12日時点のFINACIAL TIMESから引用します。

(図3)

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上記のように死亡者数は英国では例年の61%増加、スペインは60%増加、イタリアは55%増加でした。
イスラエル、ノルウェイ、南アフリカは増加していません。

(図4)

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図3・図4 出所:Coronavirus tracked: the latest figures as countries fight to contain the pandemic
https://www.ft.com/content/a26fbf7e-48f8-11ea-aeb3-955839e06441

感染者の多い各都市で見てみると、上記のように死亡者は、ニューヨーク市は408%増加、イタリアのベルガモは496%増加です。

さて、日本でも同じようなデータがあります。
それは国立感染症研究所のインフルエンザと肺炎の死亡者のデータです。
下記は全国21都市のグラフと、東京のグラフです。

[図5] 全国21大都市のグラフ

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[図6] 東京のグラフ

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出所:国立感染症研究所
図5:https://www.niid.go.jp/niid/ja/flu-m/2112-idsc/jinsoku/1847-flu-jinsoku-2.html
図6:https://www.niid.go.jp/niid/ja/flu-m/2112-idsc/jinsoku/1852-flu-jinsoku-7.html
※注:ベースラインとは、インフルエンザが流行していなければ発生したであろう死亡者数閾値は、インフルエンザが流行したことによって増加したであろう死亡者数 を指し、国は、インフルエンザの流行規模を示す指標として、これらの概念を導入して管理している

ここのデータに新型コロナ感染症死亡者を加えても、ほとんど変わりません。
日本全体での新型コロナ死亡者数は上記の図中の10週(3/2週)が4名で、その後 1名、16名、14名、19名と推移します。
同時期の東京都では10週(3/2週)が1名で、その後 0名、1名、2名、3名と推移します。

今シーズンの東京都では昨年末から例年の平均の上限もしくはやや多めの肺炎関連死亡者数(特に2月終わりから3月終わりまでは明らかに例年より多い)が、3月終わりからは死亡者数が減ってきています。

このグラフからは、いろいろな感染予防行動が肺炎全般的に効果的であったと考えられます。

全国では明らかに肺炎関連死亡者は例年並みであり、3月中旬以降は例年以下になっています。
これもいろいろな感染予防行動が肺炎全般的に効果的であったためと考えます。

[3]ワクチンの有効性と抗体依存性感染増強(ADE)現象について

日経バイオテクの記事を一部引用します

出所:https://bio.nikkeibp.co.jp/atcl/news/p1/20/03/30/06749/

ワクチンとは、弱毒化あるいは無毒化した病原体や、病原体の一部などのことです。病原体に感染する前にあらかじめ投与しておくことで、病原体に対する免疫を獲得させることを目的にします。 免疫には抗体というたんぱく質を作ることで病原体に直接作用したり、免疫細胞に取り込ませて処理をさせる液性免疫と、リンパ球などの免疫細胞が病原体に感染した細胞を処理する仕組みである細胞性免疫があります。
このような免疫は、本来は病原体にかかった時の体の防御システムであり、2度と同じ病原体にかからないようにする仕組みです。ワクチンはその仕組みを使っています。

ではワクチン免疫で抗体ができれば絶対に大丈夫でしょうか?インフルエンザのことを考えればわかりますが、ワクチンが効きにくい人もいれば、効果がある人もいます。またウイルスの型が変わったのでワクチン効果が出ないこともあります。

それ以外にも懸念があります。再び、日経バイオテクの記事から引用します。

その1つが、ワクチンの接種などにより起こりうる「抗体依存性感染増強(ADE)」と呼ばれる現象です。本来ならウイルスなどから体を守るはずの抗体が、ウイルスが抗体と結合し免疫細胞などに取り込まれ、細胞内でウイルスの感染を促進。その後ウイルスに感染した免疫細胞が暴走しサイトカインという因子を過剰に放出、症状を悪化させてしまうという現象です。

詳しい原因は不明で、中途半端な抗体ができたためともいわれています。過去のワクチン開発でも動物実験のレベルでこのADEが発症して開発中止となった例があるそうです。

リンパ球などの細胞性免疫を獲得することが大事だといわれています。BCGの効果の可能性もこの細胞性免疫を介しているのではないかと考えられています。

臨床上で一番簡単な指標は、採血検査で白血球の分画である好中球やリンパ球の数を数えることです。リンパ球数は重要です。新型コロナウイルス感染症の特徴の一つとしてこのリンパ球数の低下が知られています。

また好中球/リンパ球比(NLR)も重要です、この比が3を超えるとリンパ球の相対的減少と考えられ、細胞性免疫の低下が考えられます。

中国の論文によれば、このNLRの上昇が重要な新型コロナウイルス感染重症化の指標となっていました。

このように免疫反応を確認しながらワクチンは開発されます。その分だけ時間がかかります。
また上記のようにウイルスに対する抗体も、その機能を確認したうえで判定する必要があります。
抗体があるからといって、一概に安全とは限りません。

[4]インフルエンザと新型コロナウイルス感染症の関連

今年のインフルエンザは例年より明らかに減っています。
下記は東京都のグラフですが、今年は年初からインフルエンザのピークがありません。

(図7)定点医療機関当たり患者報告数 2020年5月10日(第19週)まで

Vol6_図7_0510時点_加工.png

出所:東京都感染症情報センター「定点医療機関当たり患者報告数」
http://idsc.tokyo-eiken.go.jp/diseases/flu/flu/

    • ◆日本人にはすでにある程度の集団免疫があるのではという、京都大学の上久保教授の仮説。

新型コロナウイルスに感染した場合、インフルエンザに感染しないという「ウイルス干渉」があるそうです。
京都大学の上久保先生は、ウイルス干渉が与えた変化を、数理モデルで検討しました。

その検討の結果、新型コロナウイルスには感染力や毒性の異なる3つの型があり、S型、K型、G型の順で日本に入ってきて、このS型、K型の新型コロナウイルスがまず日本国内に拡散したことで、日本のインフルエンザの流行が抑えられた。

その一方で、新型コロナウイルスに関する集団免疫を日本人は獲得し、日本の死亡者数の低さにも影響を与えた、とする仮説を立てられました。

Kz型やK型は感知されないまま世界に拡大した。S型は昨年10~12月の時点で広がり、K型が日本に侵入したピークは今年1月13日の週。やや遅れて中国・武漢発の「G型」と、上海で変異して欧米に広がったG型が拡散した。

出所:https://www.zakzak.co.jp/soc/news/200509/dom2005090005-n2.html

仮説ではS型、K型に対する体の免疫反応には下記のような違いがあるそうです。

      • S型:リンパ球の細胞性免疫にはウイルス感染を予防する能力が低い。
        抗体もウイルスを中和し消失させる作用がなく、逆に細胞への侵入を助長する働き(上記のADE:抗体依存性増強)がある。
      • K型:リンパ球の細胞性免疫にはウイルス感染を予防する能力ある。抗体は低めでウイルスを中和し消失させる作用がない。

ちなみに、この仮説の中でG型は感染力も毒性も強いタイプとされています。

      • G型:中国・武漢発のタイプと、上海で変異して欧米に広がったタイプ。

下記の図は各都市でのインフルエンザ警報レベルですが、2つの谷があります。
この谷は、新型コロナウイルス感染の影響で出来た(新型コロナウイルス感染がなかったら、この谷は出来なかった)、と考えられるそうです。

(図8)S型とK型の新型コロナウイルスが、下記のタイミングで拡散したため、インフルエンザの流行が抑えられた、という仮説

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出所:https://www.cambridge.org/engage/coe/search-dashboard?text=kamikubo

イタリアは2月1日、中国との直行便を停止。米国は2月2日、14日以内に中国に滞在した外国人の入国を認めない措置を実施しましたが、日本が全面的な入国制限を強化したのは3月9日であり、旧正月「春節」を含む昨年11月~今年2月末の間に184万人以上の中国人が来日しました。
その結果として、日本では3月9日までの期間にK型が広がり、集団免疫を獲得することができた。一方、早い段階で入国制限を実施した欧米ではK型の流行を防いでしまった。

出所:https://www.zakzak.co.jp/soc/news/200509/dom2005090005-n2.html

日本の「対策の遅れ」が中国からのK型の流行を招いた結果、集団免疫を獲得するに至った。
そして3月20~22日の3連休などで油断した時期に欧米からG型が侵入し、4月上旬までの第2波を生んだ。
…という仮説です。

(図9)

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出所:https://www.cambridge.org/engage/coe/search-dashboard?text=kamikubo

イタリアなど欧米で起こったこと:(図c 参照)
  1. ・中国との往来が多いイタリアなどで入国制限前にS型が拡散した
  2. ・入国制限により、K型は拡散せず
  3. ・その後、感染力や毒性が強いG型が入ってきた
  4. ・S型抗体のADEで逆にウイルス取り込みが強くなり、また細胞性免疫の防御(K型)もなかった
  5. ・結果的に、感染が爆発的に広がり、かつ免疫暴走による肺炎悪化も増えた
日本で起こったこと:(図a、図b参照)
  1. ・日本では入国制限が遅れた結果、S型、K型のいずれも拡散した
  2. ・S型、K型の両方に感染した人(図a)は、新型コロナ全般への中和抗体ができ、自然免疫ワクチン効果となった
  3. ・またリンパ球の細胞性免疫も獲得した
  4. ・結果的に、症状のない不顕性感染者が多い可能性がある
  5. ・日本でS型感染しないでK型感染だけであった人(図b)は、中和抗体はないもののADEもなく、リンパ球の細胞性免疫がある程度効果をもった。
    このような人は軽度の症状の可能性がある
  6. ・尚、日本でもS型だけでK型にかからなかった人(図c)は、欧米と同じパターンの可能性があります

上久保先生の仮説を解説すると上記の通りですが、果たして、日本人は、既に集団免疫が確立されているのか。
今後の更なる研究成果が待たれます。
その研究成果が出るまでの間、私たちは一人ひとりに出来ることに、引き続き取り組んでいきたいものです。

[5]治療薬の最新情報まとめ

最後に、新型コロナウイルス感染症の治療薬の最新情報をまとめます。
以前にまとめたアビガンは中等症の患者さんの薬と考えられますが、日本での新型コロナウイルスに対する認可は近いそうです。

◆重症の患者さんに対する薬
A.レムデシビル
アビガンと似た働きをします。ウイルスの複製に関するRNAポリメラーゼを阻害する効果があります。これによりウイルスの増殖を抑制します。エボラ出血熱の薬として開発されました。アビガンと異なり重症者に対しての症状改善やそれにかかる時間の短縮が報告されています。起こりうる副作用は肝機能障害、下痢、皮疹、腎機能障害などの頻度が高く、重篤な副作用として多臓器不全、敗血症性ショック、急性腎障害、低血圧が報告されています。5月7日に特例承認されました。
B.トシリツマブ(アクテムラ)
新型コロナウイルス感染症では、肺炎の重症化が致命的な結果となります。ここには自分自身の免疫の過剰反応(サイトカインストーム)が関係しているといわれています。トシリツマブ(アクテムラ)は炎症性サイトカインであるIL6を抑制する効果があります。2005年に日本で開発され抗リウマチ薬として使用実績も豊富です。
実際に新型コロナウイルスの重症肺炎を改善させたとする報告が出てきています。現在も臨床研究が続いているそうです。
◆軽症などの患者さんに対する薬
C.イベルメクチン
最後に、報道で最近注目を集めているイベルメクチンについて、まとめます。

イベルメクチン(英: ivermectin)は、マクロライド類に属する物質。腸管糞線虫症の経口駆虫薬、疥癬、毛包虫症の治療薬でもある。商品名はストロメクトール(日本ではMSD社製造、マルホ社販売)。放線菌が生成するアベルメクチンの化学誘導体。静岡県伊東市内のゴルフ場近くで採取した土壌から、(ノーベル賞受賞者)大村智により発見された新種の放線菌「ストレプトマイセス・アベルメクチニウス」(Streptomyces avermitilis)が生産する物質を元に、MSDが創薬した。

出所:Wikipedia
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%A4%E3%83%99%E3%83%AB%E3%83%A1%E3%82%AF%E3%83%81%E3%83%B3

注目のきっかけになったのは、4/3に発表された下記の論文でした。

イベルメクチンにCOVID-19増殖を抑える作用があることが実験で明らかになった。
COVID-19感染細胞にイベルメクチンを単回投与すると、48時間後のウイルス増殖量が5000分の1に低下していた。イベルメクチンはFDA承認の寄生虫駆除薬であり、適用拡大は容易である。イベルメクチンはWHOのエッセンシャル薬剤に加えられており、全世界で容易に投与できる。

出所:Caly L(王立メルボルン病院 感染症免疫研究所), Druce JD, Catton MG, Jans DA, Wagstaff KM. The FDA-approved Drug Ivermectin inhibits the replication of SARS-CoV-2 in vitro. Antiviral Res. 2020 Apr.
https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S0166354220302011

この論文を受けて、国内でもイベルメクチンの報道がなされるようになりました。

新型コロナウイルス感染症の治療薬を巡り、抗寄生虫薬の「イベルメクチン」に死亡率を下げる効果があるとする報告を、米国のチームがまとめた。
米国のチームは20年1~3月に新型コロナウイルスに感染し、治療を受けた人のデータを収集。アジアと欧州、北米にある169医療機関からイベルメクチンを使った704例と、使わなかった704例とを比べ、統計分析した。イベルメクチンを使った患者の死亡率は、使わなかった患者と比べて約6分の1にまで抑えられたという。

出所:毎日新聞4/24付「抗寄生虫薬「イベルメクチン」新型コロナに効果か」
https://mainichi.jp/articles/20200424/k00/00m/030/201000c

国内で、イベルメクチンの臨床試験が始まったようです。今後の成果が期待されます。

※当ページの内容は「2020年5月14日」時点の情報です。