医療・健康コラム
Vol.3(2020/4/9)新型コロナウイルスの基礎知識/山中教授の提言/簡易抗体検査/ほか
緊急事態宣言(4/7)が出された今、改めて、新型コロナウイルスに関する基礎知識、皆さんの行動変容の状況、新型コロナウイルスの検査方法の開発状況、軽症感染者に対する対策をご紹介します。
[1] 知っておきたい新型コロナウイルスの基礎知識まとめ
改めて、新型コロナウイルスの特徴を、ナショナルジオグラフィック日本語版より要約します。感染予防の原点はここにあります。
出所:https://natgeo.nikkeibp.co.jp/atcl/news/20/033100206/
(1)主に飛沫によって感染が広がる
- 1分毎の飛沫の数は くしゃみ(40,000)> 咳(3,000)> 1分間の会話(600)で、飛沫は2メートル程度まで飛びます。
この意味で感染者のマスク着用には意義があり、不顕性感染者(症状が認められない感染者)が増えてきたときには “皆” がマスクを着用する意義はあります。飛沫は器物に付着してウイルスは存在し続け、空気中の微粒子にも付着します。
(2)新型コロナウイルスに感染しないためには、他の人との間に2メートル以上の距離を保ち、せっけんと流水で20秒以上手を洗うこと
- 器物に付着した後のウイルスの生存時間は、ステンレスとプラスチックは72時間と非常に長く、段ボールで24時間、銅(10円硬貨でも使われています)では4時間と言われます。プラスチックとステンレススチールの表面は70%以上のアルコールで消毒するとウイルスを殺すことができます。まずは手洗い20秒です。
(3)症状は共通ではないが、頻繁に見られるものはある
- 熱 (87.9%) > 乾いた咳 (67.7%) > 強いだるさ (38.1%) > 痰 (33.4%) > 息切れ (18.6%) > 筋肉痛及び関節痛 (14.8%)
その他に 味覚異常、嗅覚異常があることが最近、報道されています。
(4)基礎疾患がある人は死亡率が高い
- 心血管疾患 (10.5%) > 糖尿病 (7.3%) > 慢性呼吸器疾患 (6.3%) > 高血圧症 (6%) > がん (5.6%) > 持病なし (0.9%)
*中国疾病対策センターの調査結果
[2] ノーベル賞学者 山中教授の5つの提言
山中教授は、ご自身が感染症や公衆衛生の専門家ではないものの、この国難に際して医学研究者として何か出来ないか、と考え、個人の活動として、情報発信を始めておられます。5つの提言の詳細は省きますが、その発信内容は傾聴に値するものと感じます。
「山中伸弥による新型コロナウイルス情報発信」
出所:https://www.covid19-yamanaka.com/index.html
- 提言1 今すぐ強力な対策を開始する
対策は先手必勝です。(中略)わが国でも、特に東京や大阪など大都市では、強力な対策を今すぐに始めるべきです。一致団結して頑張り、ウイルスに打ち克ちましょう!- 提言2 感染者の症状に応じた受入れ体制の整備
無症状者・軽症者用の施設をいかに安全に、かつ快適に運営するか、各自治体の腕の見せ所です。
医師・看護師など医療関係者を、感染と過重労働から守る必要があります。- 提言3 検査体制の強化(提言2の実行が前提)
PCR検査を必要な時に必要な数だけ安全に行う体制の強化が求められています。これは世界各国の行政や科学者の知恵比べです- 提言4 国民への協力要請と適切な補償
短期間の自粛要請を繰り返すと、国民は疲弊します。国民に対して長期戦への対応協力を要請するべきです。
休業等への補償、給与や雇用の保証が必須です。各国首脳や政治家の手腕が問われています。- 提言5 ワクチンと治療薬の開発に集中投資を
産官学が協力し、国産のワクチンと治療薬の開発に全力で取り組まなければなりません。
中国・武漢での急速な感染拡大の主な原因が、軽症者の自宅待機による家族内感染にあったこと、その対策として軽症者滞在用のホテルや会議場を臨時病院に転用させて感染拡大のスピード低下させたこと等の報道もありました。今回の緊急事態宣言により、提言1や提言2の内容が一刻も早く進むことが期待されます。
[3] Googleが人の移動を可視化しました。
「どれくらい自粛されたか」
3月29日の時点で2月初めの活動量からどのぐらい低下したのか。Googleのレポートから、イタリア、米国、日本の比較表を作成しました。この他にも多くの国・地域の日々の変動がグラフで示されていますが、このデータを見る限り、日本は(日本全体が対象と思われますが)移動制限はあまり進んではいません。
COVID-19 Community Mobility Reports
出所:https://www.google.com/covid19/mobility/
[4] 新型検査:特に簡易抗体検査について
移動制限があまり進まない中では、当分の間、感染者数の増加傾向は変わらないことでしょう。山中先生の提言2にあった、軽症者はホテルで療養する例が東京や大阪で動き出しています。入院や退院の判断の際には検査が必要ですから、いよいよ、提言3の新型コロナウイルス検査を広く行えることが重要になってきました。
- (1) 現在の検査はPCR検査です。数時間掛かります
- この検査は、ウイルスRNAをDNAに変換した後、増幅反応(PCR)させて、増えたDNA断片が新型コロナウイルスに合致するか確認する手法です。通常は全部で数時間かかります。この検査は(筆者も25年以上前に研究で普通に使用した)古くからある検査です。
ウイルスの存在を感度高く確認できますが、検体の質や時期によって偽陰性(本来は陰性なのに、陽性結果が出ること)もあり、検査には医師の総合的な判断が必要です。
- (2) 検査時間を大幅にスピードアップする検査キットが発売されます
- 栄研化学は「Loopamp®新型コロナウイルス2019(SARS-CoV-2)検出試薬キット」を4月中旬以降発売しますが、合計の検査時間を45分まで短縮できるといわれています。これもウイルスの存在を感度高く確認できますが、検体の質や時期によって偽陰性もあります。鼻腔検体採取の際にウイルスを浴びて感染する可能性も否定できません。参考:http://www.eiken.co.jp/news/pdf/20200331-1.pdf
- (3) 簡易抗体検査キットも開発されています
- ウイルス感染後に人の免疫系に現れる抗体に着目した検査が開発されています。
- ◆抗体検査の仕組み
- ウイルス感染後に人の免疫系は急性期免疫グロブリン抗体のIgMを分泌し、その後に長期免疫グロブリン抗体のIgGを分泌します。図1の通り、IgM抗体があればウイルスも存在する可能性が高くなり、IgM抗体が消えてIgG抗体だけが検出されると治癒後の可能性が高いと考えられます。
- IgM抗体もIgG抗体もない場合には、未感染もしくは感染のごく早期と言えますが、PCRでウイルスが陰性になった後に再燃した例の場合には、このIgG抗体があるのかどうか検討が待たれるところです。このように抗体検査のタイミングによっては適切な結果が出ない可能性も否定できませんが、検査時間が15分以内と非常に短く、採血した血液をキットの上に添加するだけなので検査の際にウイルスを浴びる可能性がかなり低くなり、検査の精度向上が期待されます。
- 【図1】近畿大学医学部免疫学教室教授 宮澤 正顯 先生の資料より抜粋
(出所:https://www.youtube.com/watch?v=aD_vMFWUf8Y) - 【図2】クラボウが中国から輸入した検査キットの使用方法
参考:https://www.kurabo.co.jp/bio/support/download.php?M=PL&CID=4#catalog232
- 【図1】近畿大学医学部免疫学教室教授 宮澤 正顯 先生の資料より抜粋
- ◆開発状況
- 既に中国では認可されている検査キットは8種類あり、広く利用されています。
日本では、現時点で検査キットは実験試薬の位置づけであり、診断試薬の認可を受けていません。従ってキット診断は確定ではありませんが、臨床的な判断には役立ちます。他国では次々と開発され、日本でも開発中ですが、一刻も早く信頼できる検査キットの認可が待たれます。
- (4)国立感染症研究所の発表
- 国立感染症研究所は、4月1日に「迅速簡易検出法(イムノクロマト法)による血中抗SARS-CoV-2抗体の評価」を発表しました。結果は下記の表のとおりです。
(検査キットとしては名前を明かしていませんが、上記のクラボウキットと思われます) - 本来、IgM抗体はウイルス出現時期と一致するはずで、発症1週間以内の無症候患者も見つけたいところですが、このキットではIgG抗体とIgM抗体が同じ動きをしているように見えます。現実的には発症1週間以内の無症候患者をこのキットで捕まえるのは難しく、万一IgG抗体が見つかった人は、2週間自宅待機してもらうのが安全…という結論のようにも思われます。
出所:https://www.niid.go.jp/niid/ja/diseases/ka/corona-virus/2019-ncov/9520-covid19-16.html
信頼できる検査キットが登場すれば、検査結果が出るまでの不安な時間はより短くなり、より多くの人に検査を提供できるようになり、状況が大きく変わってくるものと期待しています。
[5] 軽症感染者が自宅で療養する時・看病する時の工夫
感染者数が増える中、自分や家族がいつ感染するとも限らない状況です。軽症感染者は自宅療養を指示されることも多いですが、その方法を間違えると、大事な家族にも移しかねません。どう工夫すれば良いのか。
出所:
https://www.fukushihoken.metro.tokyo.lg.jp/oshirase/corona_0401.files/corona.pdf
https://www.mhlw.go.jp/content/10900000/000601721.pdf
上記以外にも幾つかのサイトに記載されています。
- <感染を疑われる症状があり、自宅療養のとき>
- 個室にしましょう(食事も、寝るときも)
- 他の人といるときはマスクをつけましょう
- 使ったティッシュはゴミ箱に捨てましょう
- トイレ・入浴のタオルやコップは自分専用のものをつかいましょう
- ・お風呂は最後に入りましょう
- <看病する人> 症状のある人のお世話をする場合
- 看病を担当する人は特定の方(できれば1名で)
- マスクをつけましょう
- 会話をするときは、正面を避け、高い位置で(例:患者が座り、お世話をする人は立つ)
- 嘔吐物を片付ける時、体液や排泄物がついた衣類を洗うときは手袋をつけましょう
- 看病の後には手を洗いましょう
- 皆がよくさわる場所の掃除・消毒をしましょう(テーブルの上、ドアノブ、スイッチ、流しレバーなど、薄めた市販の家庭用塩素系漂白剤(目安の濃度は0.05%)で拭いた後、使い捨てペーパ等で水拭きしましょう)
- シーツや衣類、食器はいつもと同じ洗い方で構いません。その後、よく手を洗いましょう
- ゴミ捨てはいつもと同じで良いですが、使用済のティッシュ・手袋・マスクなどは他の人が触れないようビニール袋に入れて捨てましょう。ゴミをまとめた後は手を洗いましょう
- ・看病をする人も体温測定や健康観察をしましょう。
[6] いま出来ること:漢方治療について
感染症学会に寄稿された、金沢大学附属病院漢方医学科 小川恵子先生の「COVID-19感染症に対する漢方治療の考え方」から無症候者や軽症者の治療を抜粋します。
出所:http://www.kansensho.or.jp/uploads/files/news/gakkai/covid19_kanpou_0319.pdf
- (1) 予防(無症状病原体保有者)
免疫力を上げる働きを持つ漢方薬を補剤と言って、免疫システムを活性化します。無症状病原体保有者の病原体陰性化の促進(無症状の感染者が他の人にウイルスを移さないようにすること)も期待できます。
- 補中益気湯:動物実験よりインターフェロン自体の産生を抑制すると報告されています。
- 十全大補湯:NK細胞機能が改善され、過剰な炎症の予防も予想されます。
- (2)軽症型
「症状が軽く、画像では肺炎症状が出ていない。」と定義され、倦怠感が主体です。
- 胃腸の不調を伴う場合:香蘇散+平胃散
- 発熱を伴う場合:黄連解毒湯、もしくは清上防風湯、もしくは荊芥連翹湯
- 悪寒を伴う場合:葛根湯、もしくは麻黄湯、高齢者や倦怠感が強い患者は麻黄附子細辛湯
※当ページの内容は「2020年4月9日」時点の情報です。